受験期の時間配分――『全教科まんべんなく』をやめる勇気
受験期
受験期に入ると、時間の使い方そのものが成績を左右します。そして、ここで多くのご家庭が陥りやすい発想があります。「全教科、まんべんなく頑張る」――真面目で、正しそうに見える。けれど、受験戦略としては、むしろ危険になりうるのです。
科目にメリハリを付ける
たとえば文系の難関私大の一般受験では、数学・理科は赤点を避ける最低限に抑え、英語・国語・社会にメリハリを付けないと、第一志望には届きません。一問に何時間もかけて「分かるまで進めない」完璧主義を、受験で使わない科目で発揮してしまうと、主要科目の時間が圧迫されます。
だから、「どれを伸ばし、どれを切るか」を事前の計画で決めておく。そして、模試の結果を配分見直しのトリガーにする――これが受験期の時間運用の基本です。ただし、切るといっても限度はあります。理系でも英語の配点は高く、「他科目を極めれば英語は捨ててよい」は成り立ちません。メリハリは、捨てることではなく、優先順位を明確にすることです。
優先順位に迷ったときの原理もあります。数学・英語のような積み上げ型の科目を先に、単発の暗記で後から戻せる科目を後に。積み上げ型は遅れが翌年以降まで響き、あとからの巻き返しが効きにくい。一方、暗記中心の科目は開始が遅れても数ヶ月の集中で一定の形になります。同じ1時間なら、取り返しのつきにくい科目から埋めるのが原則です。
受験学年の夏を、時間割ではなく優先順位で設計する
受験の天王山と呼ばれる夏休みですが、まず持っておきたいのは現実的な上限感覚です。1日12時間の勉強を続けられる受験生は、ごくわずかです。コンスタントに続けられるのは、よくて1日10時間程度――この前提で計画を立てたほうが、途中で崩れずに済みます。
そして、計画は「今日は何時間やる」という時間ベースではなく、模試ごとの優先順位を月単位・日単位に割り戻す形で立てるのが実際的です。次の模試までに何を仕上げるかを決め、優先度の高い科目から淡々と消化する。時間は結果としてついてきます。
夏の終わりの模試には、独特の重みがあります。「ここからでも巻き返せる」ことを示す最後の材料になりやすい一方、結果の返却までは1ヶ月前後かかり、返ってきた時点で志望校は事実上絞られ始めます。だから、受け終わったら自己採点をすぐに済ませ、返却を待たずに次の1ヶ月の配分を決めること。結果待ちの1ヶ月を漫然と過ごすかどうかで、秋の立ち上がりが変わります。
こまごまとした段取りも、夏の設計に効いてきます。学校で一括して受ける模試と自分で申し込む模試の日程が重複しないよう、学校の予定を早めに確認しておく。部活の大会と重なるなら、自宅受験できる模試を代わりに置く。2学期制の学校では、1学期期末の答案返却が夏休みに入ってからになることもあるので、それを夏の計画の見直し材料として織り込んでおく――どれも小さなことですが、夏は一度きりです。
共通テストと模試の使い方
方式についても、誤解が多いところです。共通テスト利用方式――とくに難関私大の枠――は、一般受験よりむしろ難易度が上がることがあり、国立志望者の保険として機能するものです。共テ利用のためだけに数学を維持し続ける必要は、必ずしもありません。
模試の使い方にも、現実的なコツがあります。国立志望なら、マーク模試と記述模試をセットで受ける(ドッキング判定)のは、ほぼ必須です。学校が一律に勧めなくても、自分で押さえておく。返却が遅い模試は戦略修正の余地が乏しいので、夏の終わりに成績が出る種別を選ぶと、立て直しが効きます。12月以降は共通テストに振り切ってよい局面があり、共テでしか使わない科目は配点を見て、潔く捨てるか薄く絞る。直前に初めて開けて慌てないよう、夏のうちに全科目を一通り触れて、分量の見当だけはつけておいてください。
浪人回避と、志望ランクは別問題
精神面の話も、ひとつ。最難関に届く実力があるのに、浪人を恐れて安全圏で手を打とうとする受験生がいます。ここでお伝えするのは、「滑り止めはグラデーションで併願すればよく、浪人回避と志望ランクを下げることは、別問題だ」という切り分けです。
「問題が難しい難関大は厳しいのでは」という不安にも、答えがあります。難しいのは全受験生に共通の条件で、その母集団の中で勝てばよいだけです。噂で進路を狭めず、まず過去問を自分の目で見るのが基本動作です。難関私大のブランドを優先するなら、同じ大学でも理系より文系のほうが到達しやすく、文系数学での受験が現実的な近道になることもあります。将来の専門と、ブランドの確保は、別問題として切り分けて考えてよいのです。
引退後の立て直しと、遅れてからの追い上げ
最後に、部活引退後の高3について。夕方に帰宅して寝てしまう、昼夜逆転気味になる――これは体力低下が一因です。自習室など外に移動し、仮眠は短時間に留めると、生活リズムを保ちやすくなります。
そして、遅めの時期からの入塾でも、諦める必要はありません。科目を絞り、基礎から個別で追い上げる前提なら、難関私大の中堅から中位帯は十分に射程に入ります。一方で、最難関はチャレンジになる――そこは正直にお伝えするほうが、かえって信頼につながると考えています。受験で使わない科目を学校が柔軟に扱ってくれる場合もあり、限られた時間を志望に直結する科目へ寄せる判断も成り立ちます。遅れていても、配分次第で、まだやれることは多く残っています。