中高一貫校生のための難関大受験塾
かっこいい、ということ

(イラスト左が椋くん、右が大槻先生)
リープエンジンを卒業後、今もときどき教材作成のアルバイトとして教室に顔を出してくれる大学二年生の椋(りょう)くんに、6年間の塾生時代を振り返ってもらった。ここで紹介するのは、彼が塾に通いながら練り上げた大学受験との向き合い方、試行錯誤をしながら自分に本当に必要な勉強のかたちを整えていく地味な工程、そしてそのモチベーションとなった感覚の話だ。
ハマるとこだわるタイプ
入塾したばかりの頃の椋くんは、当時英語を担当した大槻先生によると、
「正直、伸びるかどうかも分からなかった。中一の頃の英語はアルファベットも怪しいくらいで。pとqを適当に書いていたよね(笑)」
ただ、コロナ禍のオンライン授業時に、自室で勉強机に向かう椋くんの背景にプラモデルやらフィギュアやらがずらりと並んでいたことが大槻先生の記憶に残っているという。何かにハマるととことんこだわる子なんだな、というのが伝わってきたようだ。
中学一年最初の定期テストの成績は、240人中の200番台。一学期末には170番台まで上がり、二学期からは80番〜100番あたりを保った。当初から比べればジャンプアップを遂げたわけだが、椋くんの中では「もっと上へ」という気持ちがずっとあったという。中三では、学校の選抜クラスに入った。一年ごとに残留が問われるクラスで、毎年そこに居続けられるかが試されるクラスである。
上を目指すモチベーションの源を、椋くんはこう表した。
「負けず嫌いなんだと思うんですよ。けっこうな負けず嫌い」
彼が最終的に組み立てた勉強時間の構成は、誰かに教わったものではなく、自分で試し、続けられる形に落ち着いたものだ。
「学校から帰って、17時から19時まで勉強。19時から22時まではフリーにして、22時から24時でまた勉強。これがいちばん自分にしっくりきて回しやすかったんですよね」
なぜ崩れることなくコツコツ勉強を続けることができたのかを聞くと——
「ほかにやることがないから……」
と椋くんは言うが、話を聞いていくとそうではない。彼の趣味は、本人いわく「ありえないくらい」多かった。絵を描いて、料理をして、映画を観て、アニメも観て、キャンプにも行く。大学受験に向け、自分の意思で一つ、また一つと趣味の時間を手放していったのだ。
勉強時間の伸ばし方にも工夫があった。「将来的に一日10時間やるとしても、いきなりはきっと無理なんで。4時間、5時間、6時間と慣らしていこう、って」
家族との関わりも聞いてみた。
「僕がいちばん誇れることは、身の回りの環境が本当に良かったことなんですよ」
と、本当に何の衒いもなく椋くんは言う。家に帰るとその日の学校のことはきれいに頭から抜けてしまうので、家で自分から学校の話をすることはなかったという。お母様は、よその家のお母様から様子を伝え聞いてようやく息子がどう過ごしているかを知る、というくらいの距離感だったらしい。勉強しろ、と言われた記憶もない。
これだけでは”放任の勧め”のように聞こえかねないので、彼自身の言葉をそのまま置いておく。
「普段から生活リズムだけには気をつけていて、勉強する習慣が身についてたから、親も何も言わなかっただけかもしれません」

「かっこいい」から採用する
リープエンジンの先生方から受けた影響はあるか、と尋ねると、椋くんは即答した。
「大槻先生と吉江先生、お二人の考え方にめちゃくちゃ影響を受けてます」
たとえば大槻先生には、こんなところがある。普段はかなり言葉を選ぶのに、ここぞという時にはまるで選ばずに言い切る。椋くんは「それ、僕もなんですよね」と応じた。
数学を担当した私(吉江)は椋くんに、公式をただ覚えて当てはめるのではなく、その場で自分の手で導けるものだけを使う、というやり方(リープ内部ではそれを「ストロングスタイル」と呼んでいる)を指導していた。それが、椋くんの哲学に合致したという。
「そっちのほうがかっこいいよね、って。単純に(笑)」
そして、こう続けた。「自分が納得できていないものは、絶対に書かないし、絶対に言わない」
この言葉を受け、大槻先生が気づいたことを口にした。椋くんは自分からは前に出てこないという印象だった。しかし、静かにふるまいながら、周りの人の言動をよく見て、自分の中に取り込んでいたのではないか。人を知ろうという気持ちが、人一倍強かったのではないかと。
椋くんは応じた。「ありますね。けっこう強いと思います」
同じじゃん
前回のコラムで話してくれた優紀くんとは、学校の同級生だった。優紀くんはだいたい学年一位で、椋くんの最高順位は二位。どちらもリープエンジンでは中1からの同窓であったものの、高校になるまでは深い親交はなかった。椋くんは優紀くんのことを取り立てて特別視することもない代わりに、自分とは種類の違う人間であるといった感覚を抱いていた。
「きちんと話をするようになったのは高二の冬なんです」と椋くんは言う。学校の体育のサッカーで、自分の友達と優紀くんの友達と、4人でミニゲームをしたのがきっかけだった。
「タイミングとしては、あの瞬間がベストだったのだと思います。中学の頃や、高三になってから出会っていたら、たぶんそんなに仲良くならなかったと思う」
二人とも勉強に本気で向き合いはじめた高二の冬だからこそ、ちょうどよかったのだろう。
学年一位の優紀くんと近くで接して椋くんが抱いたものは、負けたという感覚でも、憧れの感情でもなかった。
「ど天才じゃないと思うんですよ、優紀も」
きちんと勉強して、あの場所にいる。もともと特別な才能があったわけではない、とわかった。
「同じじゃん、っていう。まあ、僕と同じような感じなんだな、って」
この発見が、二人が受験に向けて”共闘”できた核となったのかもしれない。

歩いて10分の大学
リープエンジンでの進学面談で、椋くんの口から「科学大」と出て、私は、いい目標を言うな、と思った。合格判定でいえば、不可能とはいえないまでも、かなりの挑戦圏。それでも本人が口にするのなら、と思ったのを覚えている。
ところが、椋くんがその大学を選んだ理由は、判定とは別のところにあった。
「実は、ほとんどそこしか見てなかったんです。地元にあるから。大学っていう存在を知ったのが、そもそもそこなんですよ」
家から歩いて10分。生まれた時から近くにあって、通う学生たちを見て育ち、「大学といえばここ」と刷り込まれていたのだという。
自分の感覚を信じ、そうと決めたらブレない。椋くんの歩みの確かさがわかるエピソードだ。
普通の人ができないことをやるって……
これから大学受験に向かうリープエンジンの後輩たちに、何か言うとしたら?と尋ねると、椋くんの言葉は急にストレートになった。
「勝つまでやるのが、やっぱり大事だと思うんですよ」
中二の学年末に、成績ががくっと落ちたときがあった。そこから火がついたのだという。
「戦ってる自分って、かっこいいじゃないですか(笑)」
勝つための方法のひとつとして、椋くんはあることを自分に課していた。
学校で選抜クラスに入ってから、「一日に一度は先生に質問する」と決めた。リープエンジンでは、物理のT先生に一時間以上食い下がったこともある。
なぜ質問することにしたのかと尋ねると、またこの言葉が返ってきた。
「質問する人って、かっこいいじゃないですか(笑)」
私は思わず、質問する人がかっこいいとはどういうこと、と尋ねてしまった。
「普通の人って、先生に質問なんて、ほとんどしないじゃないですか。それをあえてやる。普通の人ができないことをやるって、やっぱりかっこいいと思いません?」

(写真は実際の対談の様子)