中高一貫校生のための難関大受験塾
ハンドルは自分で握る

(イラスト左が眞くん、右が大槻先生)
夏休みも終わりに近いある日、大学二年生の眞くんが教室に遊びに来てくれた。中学二年の後半に入塾し、英語を大槻先生に、高校からは数学を私に習った塾生だ。この日は大槻先生が聞き手になって、近況から当時の話までを聞いた。
責任の重さが違う
眞くんはいま、東京理科大学の学園祭「理大祭」の実行委員会で、渉外局にいる。企業から協賛を集める部署だ。来場者の数や満足度、企画の内容などをまとめて、協賛するとどんな利点があるかを企業に伝える資料を作っている。
中学・高校の委員会と何が違うのか。大槻先生が聞くと、答えは短かった。
「責任が一番違います。やらかした時の損害がでかいので」
一社が協賛を取りやめれば、少なくない額の穴があく。それをどう埋めるかを考えなければならない。相手は学内ではなく、学外の企業だ。
学園祭会場の安全対策についても、実行委員は責任の一端を担う。万一のときに学園祭を開くかどうかは、三年生の幹部が大学と協議して決めるという。来年は眞くんがその立場に就くかもしれない。
自分に合うところへ
話は入塾した頃に戻る。
入塾のいちばんの理由は、親御さんの考えだった。眞くんには、大きく展開しすぎず一人ひとりの塾生に目が行き届く塾のほうが合う。小学生の頃からそう考えていらしたそうだ。ほかの塾もいくつか見学したうえで、言葉にしにくい「雰囲気の違い」に惹かれて、リープエンジンを選んでくれた。
この選び方は、中学受験の頃から変わっていない。攻玉社を選んだのも、成績で届くかどうかより、自分に合うかどうかが決め手だった。
では、リープエンジンの何が合っていたのか。
「リープは、塾生の自主性が担保されていると感じたんです。世間の評判だけに縛られず、『自分がこの学校に行きたいから』『自分がこうしたいから』、そのために頑張るというスタイルが、先生やクラスの雰囲気から感じられた」
これを聞いた大槻先生は、「当時からなかなか大人な考え方をしていたんだよね」と振り返っていた。
型を決めないという流儀
中学時代の思い出を聞くと、返ってきたのは「ただひたすらに音読してたな」のひと言だった。とりわけ、聞こえてくる英語を少し遅れて追いかけて声に出すシャドーイングを、よくやっていたという。
ただし、その後も勉強のやり方は試行錯誤が続いた。眞くん自身は、その試行錯誤を楽しんでいたと言う。
「私はむしろ、自分のスタイルを決めたくないんです。一つの答えを出すのが、そんなに好きじゃない」
(眞くんの一人称は、入塾した頃からずっと「私」だ)
英語では、高校に入って大きな転換点があった。幼稚園のあいだ英会話を習っていた眞くんは、例えば”apple”と聞けば、日本語に訳さなくてもりんごそのものが浮かぶ。そのぶん、英文の構造をいったん日本語で分析する、大学受験でよくある英文解釈の読み方には、なかなか慣れなかった。
しかし、「そういうものか」と割り切って読み方を改めると、成績は安定していった。受験期には、単語は英語のまま受け取り、英文は日本語で構造をたどりながら場面を思い浮かべて意味を取る。本人いわく「二刀流」の読み方に落ち着いたという。
数学は私が教えた。眞くんには、眞くんならではの流儀があった。私が塾生に言っているのは「自分で証明できない公式や定理は使わない」だ。眞くんはこれを「ストロングスタイル」と呼んで学びつつ、別の道も厭わなかった。参考書から使えそうな公式を片端から集め、組み合わせて答えにたどり着く。本人いわく「ゴリラスタイル」だ。
「場合によっては、早いうちに答えを見ていいんですよ、私の場合は。でも、吉江先生のいうとおり、やり方を説明できない解法はありえない」
一方で、樹形図でしらみつぶしに数えるのは好きではない。もっと面白い解き方があるはずだと突き詰めて、三角形を回したり、図形を折り返したりし始める。私の記憶でも、眞くんは高校の範囲を越えるような独創的な解法を、質問に持ってくることが多い塾生だった。
「数学には、ある種の美しさがあるだろうっていう根底があるので。それを信じて先生にぶつかっていった感じですね」

アーティストではなく、デザイナー
模型、とりわけ戦艦の模型づくりにのめり込んでいた眞くんは、自分をこう分析する。
「アーティストは、ゼロから一を作るじゃないですか。デザイナーは、すでに存在するものを組み合わせて、ある種きれいなものを作る。私はデザイナー的なメンタリティかなって」
大槻先生が以前、季節講習で開いていた「学びの対話」は、社会の出来事などを題材に、塾生と先生が考えを交わす場だった。眞くんはそこに何度か参加している。すでにある状況や情報をどう並べ替えれば美しくなるか。それを考えるのに、あの場はちょうどよかったという。
志望校には、東京科学大学や慶應義塾大学も挙がっていた。現実的な線を見極め、実際に足を運んで校風を確かめた末に、理科大へと「吸い込まれ」たのだという。
「性に合わないところに行く大変さがあるなって。『もうちょっとあれば慶應いけたよな』と学校の先生に言われることもありますけど、後悔はしていないんです。自分で望んで決めたことなので」
アクセルとハンドル
リープエンジンは眞くんに何をしてあげられたのか。大槻先生が尋ねると、眞くんはたとえ話で答えた。
「アクセルを踏まれるとか、踏めって言われるのは別に大丈夫なんです。ハンドルを握られるのは嫌いなんですけど」
一人ひとりの望みを後押しし、授業後には相談に乗る。そうした関わりを、眞くんは「かなり重要だった」と振り返ってくれた。
「進学実績こそ命、という予備校よりは、口コミ命のほうが、私は性に合うし、信頼できる」
大槻先生には、忘れられない場面があるという。ある授業のあと、大槻先生が「合理化をどんどん進めて、AIが発達して、加速主義的に先へ進めばいいじゃないか。それは避けられないんじゃないか」と口にした。すると眞くんは「その場合、いったい倫理はどこ行くんですか」と返した。最適な配置を好む、合理の人だと思っていた眞くんが、倫理を持ち出してきた。大槻先生はそう言う。
あらためてその真意を聞くと、眞くんはこう答えた。
「私の考えでは、倫理と合理は表裏一体で考えるべきものなんです。いわゆる合理と言うと、感情を全部捨て去っているような気がするけど、感情も倫理も、それを内包した全てこそが合理なのであって」
高校生のうちから倫理と合理を一緒に考える塾生がいてくれたことがありがたかった、と大槻先生は言っていた。

後輩へ
最後に、今のリープエンジンの塾生の話になった。この日、眞くんは中学一年生の塾生とも顔を合わせている。その印象を大槻先生に聞かれて、こう答えた。
「自分たちの代は少し低血圧というかスロースタートな面がありましたけど、今のリープの子たちはすごい高血圧で目標に向かって頑張っていて。『すっげえな、こいつら』って感じです」
対談を終えると、ちょうど英語の質問を抱えた塾生がやって来た。眞くんはそのまま、後輩の質問に付き合ってくれた。

(写真は実際の対談の様子)