中高一貫校生のための難関大受験塾

証明できない​公式は、​使っちゃダメ

以下の記事は、主任講師の吉江が実際の授業を見学し、また授業動画を見直して、ふだんの授業の一場面を記録したものです。当塾の雰囲気をお伝えできれば幸いです。

数学の相談学習で、私が担当している回でのことです。三角比を進めている塾生で、この日は直線のなす角から正弦定理に入るところでした。

最初の問題は、傾きが−1の直線がx軸の正の向きとなす角を求めるものです。図を描けば45°と分かります。塾生も45°と答えました。ただ、答えたあとに聞いてきました。

「傾きが−1っていうのは、この角度と何か関係してるんですか」

「それはいい質問ですね」と返して、続けました。傾きは、x軸の右向きから反時計回りに測った角度のtanと同じ値になります。この直線なら反時計回りに135°。tan135°はいくつかと聞くと、少し考えて「−1?」。傾きと同じ数です。

「あ、本当だ。すごい」

言われてみれば当たり前で、tanはもともと傾きのことです。ここが見えると、2本の直線のなす角も、それぞれの回転角を出して差をとるだけになります。傾き−√3の直線は120°、傾き−1の直線は135°、なす角はその差の15°。次の問題では150°と45°で差が105°、鈍角になったので180°から引いて75°。塾生は2問目を自分の手で解き切って、「天才だな」と自分に向かって言っていました。

そのあと、正弦定理に入りました。三角形の角A、B、Cと、それぞれの向かいの辺a、b、cについて、a/sinA、b/sinB、c/sinC が全部同じ値になる、という定理です。「なぜって思うでしょう」と私が聞くと、塾生は「思いますよ。何で成り立ってるんだっていう」。そこで証明を始めました。

三角形の外接円を描き、中心から頂点B、Cへ線を引きます。すると中心角ができます。これは頂点Aの角の2倍、つまり2Aです。ここを2Aと置いて先へ進む前に、私は聞きました。

「これ、なぜ2Aか説明できますか」

塾生は答えられません。中心角は円周角の2倍だという、中学で習う定理です。塾生も「中学生のときよく使ったのに」と言いますが、理由は出てきません。私は言いました。「それが言えないんだったら、使っちゃダメね」。塾生は「あとで理由が分かれば、それでいいことになりませんか」と粘りましたが、「じゃあ、今使っていいように証明してください」と返しました。今使いたいなら、今その場で証明する。うちではこのやり方を「ストロングスタイル」と呼んでいます。

正弦定理を証明したい。そのために中心角と円周角の関係が要る。ではその関係はなぜ成り立つのか。こうして知識は、一段ずつ基礎の方へさかのぼっていきます。理由を言えない公式は、この教室では借りもの扱いです。

結局この日は、中心角が2Aになることを「今日は特別に借りる」と断って進めました。あとは二等辺三角形に垂線を下ろし、a/2 と半径Rでできる直角三角形から sinA = a/2R。形を変えると a/sinA = 2R。つまり a/sinA は、外接円の直径と同じ値です。塾生は「なるほど。すごいな」と言いました。

借りた分は返してもらいます。塾生は「ちゃんと考えるから、家で」と言って帰りました。中心角はなぜ円周角の2倍になるのか。いつ聞かれても答えられるようにしておいて、と伝えてあります。

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