中高一貫校生のための難関大受験塾

高校英語、例文テストの交渉——「時間がない」を英語で言えるまで

高校3年生の英語の授業で、例文100本の聞き取り教材が、この日ようやく終わりました。

区切りを迎えて、先生から宿題がひとつ。「1日1回、8分間の音声部分を必ず聞く」。そしてもうひとつ、提案が続きました。「この100個の英文さ、来週までに覚えちゃってくれる? テストしていい? ランダムに」

塾生の返事は「ノー」。ここから始まった交渉が、いつのまにか英語の授業そのものになっていったので、そのまま紹介します。

ホワイトボードに英文を書く先生の後ろ姿

(写真は同じ先生の英語の授業から。別日の撮影です)

「なんで? だって毎日リスニングするでしょ?」と問われた塾生は、日本語ではなく英語で理由を言い始めました。

「I have no time, I have no time for studying it.(時間がないんです)」

「不自然だな。I have no time to work on it. ……でも時間はあるでしょ?」

「No.」

「いや、いっぱいあるよ。You have a lot of spare time.」

「No!」

spare time——すきま時間、という言葉が出たところで、先生は交渉をいったん止めて聞きます。「Do you know what it means? “Spare time”.」。塾生が「Spare time is, um, I mean, yeah, um……」と詰まると、先生は「“Time between things”.(用事と用事のあいだの時間)」とだけ言い置いて、問答は英語のまま続きます。

「You can’t keep studying for more than 10 hours. You have to take a break.(10時間も勉強し続けられないでしょう。休憩はあるはず)」

「No. My daily schedule is so tight. So, there is no room, um, I can study this.」

「There’s no room for what?(何をする余地がないの?)」

「……For what?」

「There’s no room for what?」

「What?」

「通じてないねえ」

「あ、何のための時間か、か」

ここで話が一段、具体になります。「だって、8分間のリスニングはするんでしょ」と先生。塾生も日本語に戻って、本音が出ました。「8分やってもいいけど、その後に例文暗記する時間はない」。すかさず先生が返します。

「じゃあ『例文暗記する時間ない』って英語で言ってみて」

「えっと……I have no enough time to……え、何だっけ。ネイティブは使うの?」

「めちゃくちゃ使う。I don’t have enough time to」

「to……」

「memorize を普通に使えばいい。Memorize each sentence.」

「I don’t have enough time to memorize each sentence.(例文を暗記する時間が足りません)」

言えたところで、この日の決着です。

「例文のテストは置いといて。ただ、リスニングはしばらくやってね。夏休み中には100個、ちゃんと覚えられるように。いい?」

塾生の粘りによって、テストは来週でなく夏休みまで持ち越されました。そのかわり交渉のあいだに、「時間がない」の言い方がいくつか、塾生の頭に刻まれています。断るためでも英語は使う——こんなやりとりも、この教室の日常です。

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