中高一貫校生のための難関大受験塾
電磁石は、たくさん巻けば強くなるのか
以下の記事は、主任講師の吉江が実際の授業を見学し、また授業動画を見直して、ふだんの授業の一場面を記録したものです。当塾の雰囲気をお伝えできれば幸いです。
高3物理の通常授業で、コイルと電磁誘導の単元を扱った回の話です。物理のT先生は、コイルの中にできる磁場の強さを表す式を板書したところで手を止めて、塾生たちに聞きました。
「小学校のころ、電磁石を作った記憶ある? エナメル線をぐるぐる巻いて」
理科の工作キットで作る、あの電磁石です。T先生は続けました。
「そのとき、たくさん巻くと電磁石は強くなりますよ、と教わるんだけど、これ、嘘なんです」
そしてT先生は、2人の小学生の話を始めました。
1人目は几帳面な子です。まずエナメル線を100回、きれいに並べて巻きました。鉄心の半分まで巻かれています。電池につないで試すと、クリップが5センチのところまでなら引きつけられます。「先生、もっと強くするにはどうしたらいいですか」と聞くと、「じゃあ、あと倍巻いてね」と言われました。几帳面な子は、巻き終わりの隣から続けて、鉄心の残りの部分に、もう100回をきれいに並べて巻きました。合計200回です。コイルの長さも、はじめの2倍になりました。
2人目は面倒くさがりな子です。はじめの100回を、鉄心の中央付近にガーッと巻きました。鉄心の左右は空いています。「強くすればいいんでしょ」と、残りの100回を、すでに巻いているエナメル線の上に巻きました。T先生の言い方では、「花粉を集めたミツバチの足みたいに、こんもりしてる状態」です。
「さあ、問題。どっちの電磁石が強いでしょうか。流す電流は同じです。巻いた数も同じ200回。エナメル線も、中の鉄心も同じです」
T先生は塾生たちに、几帳面な子だと思う人、面倒くさがりな子だと思う人、と順に手を挙げさせてから、答えを言いました。
「これ、面倒くさがりな子のほうなんです」
理由は、さっき板書した式にあります。十分に長いコイルの内側では、磁場の強さは n と I の掛け算で決まります。I は電流です。n は、巻き数の合計ではなく、「1メートルあたり何回巻いてあるか」です。

(写真はこの日の授業の板書から)
几帳面な子は、巻き数を2倍にしました。ただ、コイルの長さも2倍になったので、1メートルあたりの巻き数は変わっていません。式の上では、磁場の強さは100回のときと同じです。面倒くさがりな子は、同じ長さのところに2倍の回数を巻いたので、1メートルあたりの巻き数が2倍になりました。
「がさつの勝利。珍しいけどね」とT先生は言いました。
そして、「ポイントは、1メートルあたりの巻き数が増えること。巻き数は減らしてもいいから、とにかくキュッと詰める」と続けました。
小学校で教わったことについて、ここで一つ補足しておきます。小学校の実験では、決まった長さの鉄心に、重ねて巻いていきます。長さが変わらないので、巻き数を増やせば、そのまま1メートルあたりの巻き数も増えます。だから「たくさん巻くと強くなる」という結果になり、教わったことはその実験の中では合っています。ただし、式の上では、磁場の強さは巻き数の合計では決まらず、どれだけ詰めて巻いたかで決まります。実物の電磁石の強さには、鉄心の形や長さなど、ほかの条件も関わります。T先生の2人の子の話は、高校物理で扱う理想的なコイルの式に当てはめて比べたものです。
しばらく式の説明が続いたあと、一人の塾生が手を挙げました。
「同じコイルを2つくっつけても、磁場は変わらないですか」
同じコイルを2つつなぐと、巻き数は2倍になり、長さも2倍になります。几帳面な子がやったことを、塾生は自分で別の形に言い直していました。T先生は「変わんない」と答えました。そして、棒磁石でも縦につなぐか横に並べるかで強さの変わり方が違う、という話をしました。
板書の式を公式として覚えるだけだと、n を「巻き数」と読み違えていても、計算問題が解けているうちは本人も気づきません。どちらの子の電磁石が強いかを一度考えておけば、n が「1メートルあたりの巻き数」だということを忘れにくくなります。
授業はこのあと、この式を使って大学入試の問題を解いていきました。