東京都立小石川中等教育学校
文理で分けない——都立小石川の6年の通し方
東京都立小石川中等教育学校は、東京都文京区にある共学の中等教育学校です。中学と高校で区切らず、6年間をひとつの課程として通します。学年の呼び方もそれに合わせて1年から6年で、1年次が中学1年、4年次が高校1年にあたります。1年から3年が前期課程、4年から6年が後期課程です。なお、同じ文京区には広尾学園小石川中学校・高等学校という私立の別の学校があります。この記事で扱うのは都立小石川中等教育学校のほうです。
この課程には、家庭の設計に直結する特徴が一つあります。学校自身が「クラスを文理別に分けず、生徒全員がすべての教科・科目をバランスよく学び、広く深い知識に支えられた教養を育む」と説明しているとおり、6年間を通してクラスを文系・理系に分けません。多くの中高一貫校が高2、この学校でいえば5年次にあたる学年で文理に分かれることを思えば、逆向きの設計です。
含意ははっきりしています。「文系にしたから数学はもう軽くていい」「理系だから国語と社会はテスト前だけ」という組み立てが、この課程では最後まで取れません。5教科を6年間、どれも落とさずに持っていくことが前提になります。
その一方で、英語と数学は習熟度別で進みます。しかも一部の学年だけではなく、1年から6年までの全期間です。行き先は分けないのに、進む速さと深さは入学した年から分かれています。
都立小石川の数学カリキュラムとつまずきやすいポイント
分かれるのは、入学した最初の年から
数学について学校が説明しているのは、独自のカリキュラムに基づく発展的な授業を展開すること、そして1年次から少人数制の習熟度別授業を行うことの二点です。習熟度別は数学と英語の2教科で、1年から6年までの全期間にわたります。
押さえておきたいのは、分かれる時期です。速度に差をつける仕組みを中学の後半や高校の入口から入れる学校は珍しくありませんが、この学校では入学して最初の年から、数学と英語が分かれた形で始まります。同じ学年でも、進み方は一律ではないということです。
そうなると、家庭が見る基準も変わります。学年の中の位置よりも先に確かめたいのは、いま本人が受けている授業で扱った問題を、日を置いてから解説を見ずにもう一度解けるかどうかです。
数学を降ろす選択肢が、6年間ないということ
文理で分けないというのは、数学の側から言えば「全員が6年間ずっと数学を持ち続ける」ということです。国語や社会が得意で理数が重いタイプの子でも、途中で数学の比重を下げる仕組みが、課程の側に用意されていません。向きを逆にしても同じで、理数が得意だから国語・社会を薄くする、という組み方もできません。
理数教育を教育活動の柱の一つに掲げ、文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受けていることも、同じ方向を向いています。理科は授業の7割以上を実験・観察にあてる設計で、毎年100〜120人の生徒が国際科学オリンピックの国内予選に挑戦し、優秀な成績を挙げています。文系に進みたい生徒も、この環境の中で6年を過ごします。
だから、数学のつまずきを「そのうち切る教科だから」では処理できません。数学の未定着は単元ひとつぶんでは表に出ず、二つ三つ先へ進んでから急に手が止まる形で表面化します。45分の授業が1日に7つ流れていく日々では、その日に分からなかった一点を言葉にして残しておかないと、翌週にはどこが起点だったかも分からなくなります。「解けなかった」ではなく「この式変形のどこで止まったか」まで書けていれば、戻り先は自分で見つけられます。戻り先が本人だけでは決めきれない時期には、どの単元まで下げるかを相談学習で一緒に決めるところから始めることもできます。
都立小石川の英語教育と、6年間での伸ばし方
英語も、1年から習熟度で分かれている
習熟度別で進むのは数学と英語の2教科だけで、どちらも1年から6年までの全期間です。入学した年から、この二つが同時に分かれた形で始まります。授業は1年から3年まで各学年とも週5コマ、うち1時間が英会話です。学校は英語と国語について、コミュニケーション能力とプレゼンテーション能力の育成を重視すると説明しています。
使う場面が、課程の中に置いてある
3年次の夏には、全員参加の海外語学研修があります。オーストラリアに2週間滞在し、現地校で授業を受け、ホームステイを体験する形です。希望者向けではなく全員、という点が設計には効きます。5年次にはシンガポール・マレーシアへの海外研修旅行も置かれています。
英語を使う場面が、学年の進行に合わせて課程に組み込まれているということです。「3年次の夏までに何ができていたいか」という目標を、外から持ち込まなくても学校の側が用意してくれます。
そのぶん、家庭で持っておきたい視点も決まります。話す・発表するという出口が用意されている環境では、準備に時間を取られて、本文を読む量や語彙の確認が後回しになりやすい。英語を見た瞬間に日本語の意味が浮かぶ語をどれだけ増やしたかは、発表の出来には現れず、後期課程に入ってから読解の速さの差として出てきます。ここだけは、授業の外で少しずつしか積めません。
後期課程では、もう一つの外国語も選べる
後期課程では、自由選択科目として独語・仏語・中国語が学べます。英語で身につけた学び方をそのまま別の言語に移せる面白さがある一方、履修すればその時間は他の科目には使えません。文理に分けない課程で5教科を落とさない前提と、もう一つの言語に時間を割く選択を、どう並べるか。この判断は4年次から5年次にかけて出てきます。語彙と読む量が細ってきた学期があれば、そこだけをアベセ(ABC)で埋め直してから学校の流れに戻す、という手当ての仕方もあります。
定期テストと、6年間を見通した学習設計
45分×7時限——一日の刻み方が違う
3学期制で、8時25分に登校し、45分の授業を1日7時限受けて、16時50分ごろ下校します。50分を6時限という作りの学校とは、一日の刻み方が違います。主要5科の週あたりのコマ数は、1年次で英語5・数学5・国語4.6・社会4・理科4の合計22.6コマ。3年次には社会と理科が5コマずつに増え、国語が4コマになって、合計24コマになります。公立中学校の課程で標準とされるコマ数より、5教科の合計はかなり多く取られています。
ただし、1コマは45分です。コマ数だけを他校と並べて授業量を比べると読み違えます。ここで起きているのは、一回を短くして回数を増やすという配り方で、国語のコマ数には0.5時間の書写が、英語には1時間の英会話が含まれています。家庭学習の側も、この刻みに合わせるほうが噛み合います。まとまった2時間を確保してから始める形より、授業ひとつに短い確認を当てていく形のほうが、7時限ぶんの内容を取りこぼしません。
定期テストは、5教科のどれかが落ちていないかの点検表
文理に分けない課程では、定期テストの読み方も変わります。得意教科をどこまで伸ばせたかより先に見たいのは、5教科のうち落ちかけている教科がないかどうかです。どれも6年間持ち続ける以上、下がった教科をあとから捨てて済ませることができません。
もう一つ、校内の順位の読み方です。同じ学校の中でついた差は、大学受験で向き合う母集団の中の差とは別のものです。学力層のそろった集団の平均だけを基準にしていると、実力を低く見積もることも、逆に安心しすぎることも起きます。
土曜の休みと、9月に集まる三大イベント
土曜日は各土曜とも休みです。ただし、学校行事やクラブ活動、補習・補講、特別授業にあてられます。カレンダー上の休みと、家庭が実際に使える時間は別に数えるほうが安全です。「土曜にまとめて復習する」設計は、行事や補講の入った週から崩れます。
行事では、9月に芸能祭・体育祭・創作展が連続して行われ、これが三大イベントとされています。すべて生徒が企画・運営するのが大きな特色です。企画と運営を生徒が担うということは、準備にかかる時間も生徒の側にあるということで、しかもその三つが9月に集まります。2学期の立ち上がりに負荷が寄ることは、あらかじめ分かります。
部活動は運動部17、文化部21、同好会1。多くの部が前期課程・後期課程合同で活動し、兼部もできます。掛け持ちができるぶん、放課後の使い方は本人の選び方で大きく変わります。
探究の時間は、教科の時間とは別に要る
6年間を通じて、探究型学習「小石川フィロソフィー」に週1〜4時間取り組みます。課題解決に必要な思考力・判断力・表現力を養う時間で、教科の積み上げとは別枠です。幅があるのは、学年や時期で配分が動くということ。しかもこの種の学習は、時間割の中だけでは終わりません。調べる、まとめる、発表の形にする——家庭に持ち帰る部分が必ず出ます。
これを「教科の勉強を圧迫するもの」と捉えてしまうと、6年間ずっと不機嫌に付き合うことになります。実際に近いのは、探究に力がかかる時期と教科の積み上げに力をかける時期が、年間の中で交互に来るという見方です。発表が近い週は演習量を落としてよく、そのぶん落ち着いた週に戻す。年間で均す発想がないまま両方に同じ力をかけようとすると、どちらも中途半端になります。
「小石川セミナー」と呼ばれる、著名な学術研究者による講演会も置かれています。点数には直接つながりませんが、進路を早く一つに決めさせるのではなく、決めるための材料を長く供給し続ける——文理に分けない課程と並べると、そういう時間の使い方だと分かります。
都立小石川の進路設計——在学中の進路の組み立て
この節は、都立小石川中等教育学校に在学中のお子さんがいるご家庭に向けたものです。
進路の出方(学校の進路構造の一般傾向)
大学へは、外部を一般受験して進むのが基本の形です。多数派は、その春のうちに4年制大学へ進みます。同時に、もう一年かけて志望を通す道を選ぶ層も一定の割合でいます。6年間の終わりが必ずしも進路の締め切りではない、という前提が家庭の側にも要ります。
そして、ここがこの学校の課程でいちばん効いてくる点です。クラスを文理別に分けないまま、生徒は6年次を迎えます。希望進路に合わせた絞り込みが課程の中で行われるのは、6年次に置かれた演習中心の特別選択講座からです。後期課程の自由選択科目も、選択という意味では同じ性質を持ちます。
言い換えると、進路に合わせて科目を絞る時期が、他の多くの学校より遅い。5年次にあたる学年で文理に分かれる学校なら、そこから先は絞った科目に時間を集められます。この学校では、その配分の変更が最後の1年まで来ません。
なお、6年次の特別選択講座や後期課程の自由選択科目の編成は年度によって変わります。現在の内容は学校配布資料や面談でご確認ください。
だから、こう設計します
設計の起点になるのは、5年次が終わる地点です。ここで置きたい状態は一つ——6年次に特別選択講座で希望進路へ寄せていくとき、5教科のどれもが足を引っ張っていないことです。絞り込みが遅いということは、絞り込むまでは全部を持って歩くということで、そこで一教科でも大きく崩れていると、最後の1年の使い道がその修復に消えます。
起点を置くと、前期課程と後期課程で守るものが分かれて見えてきます。1年次から3年次は、習熟度別で進む英語と数学に未定着を残さない期間です。分かれて進む形なので、学年の中での位置よりも、いま受けている授業の内容を自力で再現できるかを基準にしてください。4年次から5年次は、国語・社会・理科を「テスト前だけ暗記で通す教科」にしない期間です。文理で分けない課程では、この三つを軽く扱った代償が6年次に返ってきます。
ここで一つ、はっきり申し上げておきます。いま、授業で扱ったことがその週のうちに家庭で戻せていて、英語と数学のどちらにも大きな穴がないのであれば、塾を急いで探す段階ではありません。この学校は主要5科に厚く時間を取り、夏期の講習は各学年とも希望制で用意され、土曜も補習・補講にあてられます。回っている状態に外から予定を足すと、増えるのは学力より拘束時間のほうです。校内で使える手当てを先に確認する、という順序をおすすめします。
外の力が要るのは、その回り方が止まったときです。週のうちに復習が戻らない、同じ教科が学期をまたいで下がり続けている、5年次に入っても5教科のどれかを実質的に諦めた形で回している——そうした兆しが出てから動いても遅くありません。リープエンジンにご相談いただく場合も、最初に決めていただくのは科目と時期と役割です。5教科を最後まで持ち続ける課程では、全体を一律に増やす形がいちばん相性が悪く、細っている一点に短く入れる形がよく効きます。
都立小石川の6年間を、見通しを持って
東京都立小石川中等教育学校(東京都文京区本駒込)は、都営三田線の千石駅A3出口から徒歩3分、巣鴨駅から徒歩10分、駒込駅から徒歩13分の位置にあります。府立第五中学校・都立小石川高等学校の100年を超える伝統と実績を踏まえた中等教育学校である、というのが学校自身の説明です。創立以来の教育理念「立志・開拓・創作」を受けつぎ、「小石川教養主義」「理数教育」「国際理解教育」を教育活動の3つの柱に据えています。
学校が育てたいと掲げているのは、現状に満足せず高い志をもって自らの個性と能力を開拓する生徒、国際社会に生きる日本人として幅広い教養と豊かな感性および高い語学力を身につけた生徒、自然科学などさまざまな場面・分野で活躍できるリーダーを目指す志の高い生徒、という三つの姿です。文理で分けない課程も、6年間続く探究の時間も、1年次から分かれる英語・数学の習熟度別も、ここから逆算された形として読めます。施設面では、音響設備の充実した多目的ホール、蔵書約4万冊の図書館、SSHコーナー、柔道場・剣道場、テニスコートなどが置かれています。
家庭の側で年に一度だけ確かめるとすれば、「いま、5教科のどれかを降ろしにかかっていないか」だと思います。文理に分けないというのは、選ばなくていいという意味ではありません。最後まで選べる状態を持ち続ける、ということです。持ち続けるには、どの教科も一定より下に落とさない手入れが要ります。その手入れが家庭の中だけでは回らなくなったとき、そこで初めて、教科と時期を絞って外の力を使えば十分です。